第163回 緑園国際交流トークサロン インド(バーラト)  
多様性、遺産、そして時代を超えた叡智の台地 
広大で多様な多言語・多宗教・多様な歴史・多文化社会、でも眠れるインド 
  
   
   
  163回緑園国際交流トークサロンが9月27日(土)盛況のうちに開催され、横浜国立大学の留学生アマン・シュクラさんを講師にお迎えしました。
 今回のテーマは「多様性、遺産、そして時代を超えた知恵の国インド(バーラト)」と題し、インドの過去から現代に至る多角的な魅力が語られました。

 アマンさんは、母国インドの名門パンジャブ大学で化学工学の学士号を取得し、学業優秀者に贈られる金メダルを受賞した経歴の持ち主です。現在は横浜国大の日本国費留学生であり、化学技術者、研究者として専門分野で活躍しています。

 トークではまず、インドの広大で多様な地理的特徴が紹介されました。世界で7番目に大きい国土は、北のヒマラヤ山脈から広大なインド・ガンジス平原、西部のタール砂漠、南のデカン高原まで、実に多彩な顔を持っています。
 人口は約143,000万人と世界第2位を誇り、ヒンドゥー教、イスラム教、キリスト教、シク教、仏教など、多くの宗教が共存しています。公用語だけでも22言語あり、1,000以上の方言が存在する多言語・多文化社会です。
 こうした背景から生まれるホーリー(色彩の祭り)やディワリ(光の祭り)といった祭典、北インドのケバブや南インドのドーサなど地域ごとに特色豊かな食文化、サリーに代表される美しい民族衣装など、その多様性こそがインドの魅力の源泉となっています。

 歴史に目を向ければ、紀元前2500年のインダス文明に始まり、マウリヤ朝、グプタ朝の黄金時代を経て、中世にはタージ・マハルに代表される壮麗なイスラム建築を生んだムガル帝国が繁栄しました。
 その後、イギリスによる植民地支配という苦難の時代を経験しますが、マハトマ・ガンディーが主導した非暴力の独立運動によって独立を勝ち取り、世界最大の民主主義国家が誕生しました。

   

 アマンさんは、ガンディーの思想の根幹に、古代インドの叙事詩『マハーバーラタ』の一部である聖典『バガヴァッド・ギーター』の教えがあったことを強調しました。ガンディーは、これを文字通りの戦争の物語ではなく、誰もが心の中に抱える善と悪の葛藤という「内なる戦い」の比喩と捉えました。そして、結果への執着を手放す「無私の行為(ニシュカマ・カルマ)」と、最大の力としての「非暴力(アヒンサー)」を自身の哲学の中心に据えたのです。

   

また、インドが世界に誇る古代の知恵として、ヨガの本質についても深い解説がありました。「結ぶ」を意味するサンスクリット語「ユジュ」語源に持つヨガは、単なる身体的なエクササイズではなく、心と魂、そして宇宙を一つに結びつけるための精神的な鍛錬です。安定した姿勢(アーサナ)、呼吸の調整(プラーナーヤーマ)、瞑想(ディヤーナ)といった八段階の実践を通じて、心の揺らぎを鎮め、自己実現に至ることがその真の目的であると語られました。

   

 最後に、現代インドの目覚ましい発展にも話が及びました。GDP(国内総生産)では世界第5位の経済大国となり、特にサービス業が経済を牽引しています。5億人を超える若い労働力を背景に、IT分野では15万社以上のスタートアップが生まれ、グーグルやマイクロソフト、アドビなど、世界的な企業のCEOを多数輩出しています。
 日本との関係も深化しており、日本の新幹線技術を導入した高速鉄道プロジェクトが進行するなど、経済・技術協力が活発化しています。

 アマンさんのスピーチは、インドの豊かな精神的遺産と、躍進する現代社会のダイナミズムを見事に結びつけ、参加者に深い感銘を与えました。

   

 今年4月にインドで出版されたアマンさんの自著『眠れるインド ヴィクシット・バーラト(先進国インド)への障壁』の紹介があった。
 インドは外から見ると順調に大きく成長しているが、国内には多くの問題を抱えており、外から見えないインドの問題を深堀し、同時に緊急の覚醒を呼び掛けています。
 アマンさん設立のNPO法人を通じ、本の売上金を貧しい家庭の子供の教育に寄付しています。今日のサロンに参加の多くの方が購入され、アマンさんは感謝されていました。

 この本は「長編ということもあり、当緑園交流委メンバーが要旨版を作成、右の画像をクリックすると見えるようにしておきました。